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東京地方裁判所 平成4年(特わ)2548号 判決

本店所在地

東京都品川区東五反田五丁目二八番九号

中央観光株式会社

(右代表者代表取締役 安部好郎)

本籍

東京都渋谷区渋谷二丁目二二番地

住居

同都目黒区中央町一丁目一二番地八号

会社役員

安部好朗

昭和九年三月三〇日生

本籍

東京都世田谷区赤堤三丁目三八一番地

住居

同都同区赤堤三丁目三六番一号

会社役員

安藤光郎

昭和二年一〇月六日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官渡邉清、弁護人西林経博(中央観光株式会社、安部好朗関係)、同林浩二(安藤光郎関係)各出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人中央観光株式会社を罰金四〇〇〇万円に、被告人安部好朗を懲役一年六月に、被告人安藤光郎を懲役一年二月に処する。この裁判の確定した日から、被告人安部好朗に対し四年間、被告人安藤光郎に対し三年間、それぞれその刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人中央観光株式会社(以下「被告会社」という)は、東京都品川区東五反田五丁目二八番九号に本店を置き、不動産売買等を目的とする資本金三〇〇〇万円の株式会社であり、被告人安部好朗は、被告会社の代表取締役としてその業務全般を統括しているもの、被告人安藤光郎は、被告会社の取締役として、その経理事務等を担当していたものであるが(以下、被告人安部及び同安藤を「被告人両名」という)、被告人両名は、共謀の上、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、架空給料手当あるいは架空工事代を計上するなどの方法により所得を秘匿した上

第一  昭和六二年二月一日から昭和六三年一月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が二億〇二九九万三三六六円(別紙1の修正損益計算書参照)、課税土地譲渡利益金額が一億九五九四万六〇〇〇円(別紙4のほ脱税額計算書参照)であったにもかかわらず、昭和六三年三月三一日、東京都港区高輪三丁目一三番二二号所在の所轄品川税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が四二二二万〇七七三円、課税土地譲渡利益金額が四五七三万八〇〇〇円で、これに対する法人税額が二六六五万七九〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(平成五年押第五〇四号の1)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額一億二八六五万四〇〇〇円と右申告税額との差額一億〇一九九万六一〇〇円(別紙4のほ脱税額計算書参照)を免れ

第二  昭和六三年二月一日から平成元年一月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一億〇二六九万〇〇九一円(別紙2の修正損益計算書参照)、課税土地譲渡利益金額が七五四六万円(別紙4のほ脱税額計算書参照)であったにもかかわらず、平成元年三月三一日、前記品川税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が四七六五万二七六四円、課税土地譲渡利益金額が三八四〇万四〇〇〇円で、これに対する法人税額が二九八五万〇三〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(前同押号の2)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額六四〇〇万六三〇〇円と右申告税額との差額三四一五万六〇〇〇円(別紙4のほ脱税額計算書参照)を免れ

第三  平成元年二月一日から平成二年一月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一億二二一六万二九七〇円(別紙3の修正損益計算書参照)、課税土地譲渡利益金額が一億二七四五万三〇〇〇円(別紙4のほ脱税額計算書参照)であったにもかかわらず、平成二年四月二日、前記品川税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一二七九万三六九五円、課税土地譲渡利益金額が二五三九万二〇〇〇円で、これに対する法人税額が一一〇五万二二〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(前同押号の3)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額八七一七万三九〇〇円と右申告税額との差額七六一二万一七〇〇円(別紙4のほ脱税額計算書参照)を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示全部の事実について

一  被告人両名の当公判廷における各供述

一  第一回公判調書中の被告人両名の各供述部分

一  被告人安部(九通)および同安藤(七通)の検察官に対する各供述調書

一  安部きみ江(五通)、山口貞義及び真島秀司(二通)の検察官に対する各供述調書

一  大蔵事務官作成の期末棚卸高調査書、給料手当調査書、雑給調査書、名義料調査書、受取利息調査書、事業税認定損調査書及び土地譲渡利益金額調査書

一  検察事務官作成の期末棚卸高についての捜査報告書、課税土地譲渡利益金額についての捜査報告書及び電話聴取書

一  登記官作成の平成四年一二月一五日付登記簿謄本

判示第一及び第二の事実について

一  大蔵事務官作成の支払利息割引料調査書

判示第一及び第三の事実について

一  大蔵事務官作成の商品仕入調査書及び工事代調査書

判示第一の事実について

一  押収してある法人税確定申告書一袋(平成五年押第五〇四号の1)

判示第二及び第三の事実について

一  大蔵事務官作成の期首棚卸高調査書

一  検察事務官作成の期首棚卸高についての捜査報告書及び事業税認定損の金額についての捜査報告書

判示第二の事実について

一  押収してある法人税確定申告書一袋(前同押号の2)

判示第三の事実について

一  大蔵事務官作成の仲介手数料調査書及び損金に算入した利子割調査書

一  検察事務官作成の雑給の金額についての捜査報告書

一  押収してある法人税確定申告書一袋(前同押号の3)

(判示第三の事実に関する補足説明)

判示第三の事実に関し、検察官は、被告人両名は、平成二年一月期に相互物産株式会社から被告会社に支払われた一八〇〇万円の仲介手数料を除外して、被告会社の確定申告をした旨主張し、右事実に対応する公訴事実において、同事業年度における被告会社の実際所得金額を一億四〇一六万二九七〇円、正規の法人税額を九四七三万三九〇〇円、ほ脱税額を八三六八万一七〇〇円と主張している(課税土地譲渡利益金額に変動はない)。

しかし、関係証拠によると、平成元年八月相互物産株式会社から中央観光サービス株式会社(以下「中央観光サービス」という)の当座預金口座に仲介手数料として一八〇〇万円が入金されたこと、右仲介手数料の発生原因となる仲介行為を被告人安部が行ったこと、被告人安部は被告会社の代表取締役であるとともに中央観光サービスの実質的経営者でもあること、被告人安部らは右仲介手数料を中央観光サービスの所得として、同会社及び被告会社の確定申告をしたことは認められるが、被告人両名の弁護人が主張するように、細井彬(相互物産株式会社代表取締役)の当公判廷における証言等の関係証拠を検討しても、右仲介手数料が被告会社と中央観光サービスのいずれに帰属するのか定かではなく、被告人安部らの右税務処理を誤りであると断定することはできない。したがって、右仲介手数料は被告会社に帰属すると認めるには合理的な疑いを容れる余地があるものとして、判示のとおりの認定にとどめることとした。

(法令の適用)

一  罰条

1  被告会社

判示第一ないし第三の各事実につき、法人税法一六四条一項、一五九条一項(罰金刑の寡額については、いずれも、刑法六条、一〇条により、平成三年法律第三一号による改正前の罰金等臨時措置法二条一項による)、二項(情状による)

2  被告人両名

判示第一ないし第三の各行為につき、いずれも刑法六〇条、法人税法一五九条一項(罰金刑の寡額については、いずれも、刑法六条、一〇条により、平成三年法律第三一号による改正前の罰金等臨時措置法二条一項による)

二  刑種の選択

被告人両名につき、いずれも懲役刑

三  併合罪の処理

1  被告会社

刑法四五条前段、四八条二項

2  被告人両名

いずれも刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情の最も重い第一の罪の刑に法定の加重)

四  刑の執行猶予

被告人両名につき、いずれも刑法二五条一項

(量刑の理由)

本件は、不動産売買等を業とする被告会社の代表取締役であった被告人安部好朗とその経理事務担当取締役であった被告人安藤光郎が共謀の上、三事業年度にわたり、架空給料手当あるいは架空工事代を計上するなどの方法により被告会社の所得及び課税土地譲渡利益金額を少なく見せかけ、合計二億一二二七万円余の法人税を脱税したという事案であり、ほ脱率も通算約六七パーセントに達している。被告人両名の脱税の動機に特に酌量すべき点は見当たらず、犯行態様も計画的でかなり巧妙である。なお、被告会社は、いわゆるバブル崩壊後の不況により営業成績が落ち込んだという事情があるにせよ、本件の法人税を殆ど支払えないまま現在に至っている。被告人安部は本件の主犯であり、その刑事責任は相当重いといわざるをえないし、被告人安藤はその経理知識を悪用して脱税の指南役ともいうべき役割を演じ、自らも被告人安部を欺くなどして多額の利益を得ているのであって、その刑事責任にも軽視を許されないものがあるといわなければならない。

他方、被告人両名とも、国税庁の査察を受けて以来、事実を認めて査察及び捜査に協力し、かつ税理士や弁護士に相談して二度と同種事犯を犯さないように努めており、当公判廷において真摯な反省の態度を示していること、被告人安部については、被告会社及び同被告人が経営する他の会社の納税につき、国税局の指導に従っているほか、個人所有のハワイの不動産の一部を処分して捻出した二〇〇〇万円を本件法人税の納税に宛てるなどしていること(なお、被告会社所有の不動産等は税額に満つるまで国税当局により差し押さえられている。)、被告人安藤については、自らが得た利益相当分を被告会社に返還し、被告会社及び被告人安部との間で円満に話し合いがついていること、被告会社を辞職し、他の会社の取締役の地位も失い、健康状態も思わしくないことなど、被告人両名に対し酌むべき事情も認められる。

当裁判所は、以上のほか一切の情状を考慮して、主分のとおり量刑した次第である。

よって、主文のとおり判決する。

(求刑 被告会社・罰金六〇〇〇万円、被告人安部好朗・懲役一年六月、被告人安藤光郎・懲役一年二月)

(裁判官 安廣文夫)

別紙1 修正損益計算書

〈省略〉

修正損益計算書

〈省略〉

別紙2 修正損益計算書

〈省略〉

修正損益計算書

〈省略〉

別紙3 修正損益計算書

〈省略〉

修正損益計算書

〈省略〉

別紙4 ほ脱税額計算書

自 昭和 62年2月1日

至 昭和 63年1月31日

〈省略〉

自 昭和 63年2月1日

至 平成 元年1月31日

〈省略〉

自 平成 元年2月1日

至 平成 2年1月31日

〈省略〉

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